私生活

プライベイトなタイムカプセル。

「どうして価値に理由をつけて ポーズを執らされているのかな」

数年前に、なんとなく惹かれあった人がまさかの彼女持ちだったことがある。

好きな気持ちに嘘をつけずに一緒にいたら、私はいつの間にか浮気相手に成り下がっていたのだった。

 

彼は私に対してはすごく優しかった。

ただ、自分の財力を顕示するのも好きだったし、私におねだりさせるのも好きだった。

彼のお金を使って1泊十数万のホテルに泊まり、グルメに買い物にカジノに、贅沢の限りを尽くした旅行をしたりした。

昼間からホテルで飲んだくれ、欲に溺れる生活を過ごしながら、私は思った。

これってなんだか売春みたいだなぁ、と。

 

もちろん、彼に対して好意も愛情もあったけれども、私は遊ばれていて、彼にとっての1番ではなかった。

それは結構悲しい事実だ。

だから、心が折れてしまわないように防衛機制が働いて、あーこれは売春なんだ、と思っていつの間にか割り切るようになっていた。

 

そうやって、自分のセックスに値段をつけることを覚えた。

好きだからこそ、その人としたはずのセックスは、気付けばもはや消費欲を満たすための手段になってしまっていた。

恋や性への価値観が変わってしまい、自分のかつてのポリシーは消えてしまった。

そして好きだったはずの彼を、心のどこかで憎むようになっていた。

 

自分の気持ちを搾取され続けたせいか、他人の気持ちを搾取することにもとても鈍感になった。

男性を騙したり、傷付けたりしても、どうせこの人はヤりたいだけだし、やらせればいいんでしょ?くらいにしか思わなくなった。

インチキな自己肯定をするようになって、屑のようなことをしていたけど、それでも両成敗だって、世の中そんなもんだって思ってやり過ごした。

人を悲しませたり、失望させては、心のどこかにある罪悪感をごまかしながら、大声でケラケラ笑った。あらゆるものを嘲笑するかのように、心の底からケラケラ笑っていた。

 

あの頃の心境をうまく説明することはできないけど、頭はちょっとイカれかけてたし、心は見えないところでズタズタだった。

一見割り切ったように見えても、夜は眠れないし、時計が深夜3時をまわると、訳もなく涙が出た。

慢性的に虚無感を抱き続けていたんだと思う。

親しい男友達に深夜に「なんのために生きているのか分からない」と電話をかけて、話を聞いてもらっていたら、いつの間にか彼の「セックスしたい」という言葉に応じてしまっていた。謎の負の連鎖。

本当にもうなにがなんだかもうよく分からなかった。

 

当時は、男性の欲望が私の心を消耗させているんだ、と考えたりもしていた。

けれども今思えば、それは誰のせいでもない。

私は自分で自分の気持ちや身体をまるで道具のように扱っていたから、自己肯定感がどんどんなくなっていったのだ。

そしてあの有様だった。

 

他人の気持ちを弄んで嘲笑うのは、かつて逆側の立場だった自分の怒りや悲しみをそういう形で処理して、なかったことにしたかったのだと思う。

でも、途中からそれはもはや自傷行為のような役目を担っていたように感じる。

ナイフで自分を切りつける人がそれに爽快感を感じるように、自分の卑しさや悪魔みたいな部分を自覚したり他人に見せつけるたびに、血を流すような快感を得ていたんだと思う。

疲弊しまくって、藁にもすがる思いになってから、やっとそのことに気付いた。

 

 

性に奔放なのは悪いことではないと思っている。

モノガミーという制度を至上だとして肯定する気もない。

性愛は本来もっと自由であるべきだと思う。

というか、人生は自由であるべきだと思っている。

みんな自分の歩みたい道を自分で選ぶ権利があると思うし、それを周りが後ろ指さすのは、仕方がないとはいえ、なにかが違うと思う。

 

ただ、そこで何か大切なものを犠牲にしていないか、自分に問い続けることは大切だと思う。
そして、自分の目の前にいる人は、本当にそれを望んでいるのか、それに目を瞑ってしまうのは卑怯だ。
そこに搾取や上下関係が生じているならそれはフェアじゃない。

そしてなにより、それが自分の本当に望んでいることなのか、なりたい自分なのか、と考えてみなくちゃいけない。

それに目を背けて、開き直って違和感のある現状を肯定していたら、負の連鎖に入ってしまう。

 

 

こんな文章を書きながら、飛行機の中で、映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を見た。

www.moneyshort.jp

「華麗なる」なんて言葉がタイトルについていながら、その映画は決して清々しいものではなかった。

でも登場人物の言葉がなんだかぐさぐさと自分の心に刺さった。

欲にまみれた人々の有り様をかつての自分と重ねてしまった。

 

人間の欲望は大きい。

隣の芝はいつだって青く見える。

自分を保つことの困難さ、そして偉大さを実感するには十分すぎる経験をしたなぁ、と思う。

 

 

どろどろに汚れた自分の心に嫌気が差したら、『星の王子さま』を読もう。
「大切なものは目に見えない」
サン=テグジュペリの言葉が自分の救いになるはずだ。

星の王子さま―オリジナル版

星の王子さま―オリジナル版